A:黒翼の妖異 ファルネウス
ある鬼哭隊の隊士が巡回中に、「ハウケタ御用邸」から黒い影が飛び去るのを目撃したの。
当初は、誰も信じなかった話だったんだけど……
森で「黒い妖異」による襲撃が多数報告されるようになり、状況は一変したわ。妖異の名は「ファルネウス」、くれぐれも気をつけることね。
~手配書より
https://gyazo.com/3519d25fd0bd125d713f6c2a34163647
ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしはモブハンカウンターで受注したばかりの手配書に目を落とし読み直した。
何度読み直しても「黒い翼の妖異」の部分で目が留まる。
あたし達はこの妖異を知っている。厳密に言えば「この妖異の本体を」ということになるが、あたしと相方が出会い、共に歩むことになるきっかけとなった妖異だ。
遥か昔に出来た大型のヴォイドクラックを抜けてきたと言い伝えられているこの妖異は時空や時間を自在に操る神にも等しい絶大な力を誇る妖異だった。
こいつの本体はあたしも含めて様々な人の魔力とその人が生きた時間とそれと複雑に絡み合っている特殊なエーテルを奪って喰らった。喰らう事でその強大な力を維持し、膨らませてきた。
あたしは生きてきた時間と育んできた魔力をほとんど全部吸い尽くされながらも奴の気まぐれで運よく生かされたが、他のケースではそのまま命を奪われてしまう事の方が多かったと聞いている。
生きてきた時間と魔力を吸い取られたあたしは時間と記憶を失い、自分が何者かもわからなくなったまま孤児院で戦災孤児に紛れて二回目の人生を歩んでいた。
その間にも、他の被害者の家族や大切な人たちは彼らの仇を討つべくその術を探求していた。人間風情の力ではとてもかなわないほど強大な妖異であるこいつを倒すために、こいつをいくつもの個体に分解し、個体同士を引き離すことで、各個体に魔力や力も分割させる。そうやって弱体化させる術を編み出し、各個撃破していく戦術を成功させた。分割された妖異はその割り当てられた能力や知能に個体差があったようだがそれでも人が戦うには強敵で、何人もの仲間を失ったと言っていた。そしてそう話していた彼自身も妖異本体を打ち倒すために犠牲になった。彼を失いながらもなんとか本体のファルネウスを倒した相方とあたしは残された者同士、コンビを組むことにした。それはお互いが望んだことでもあったのだが。
その強大な妖異の名はファルネウス。
「黒翼」との二つ名を持つ。
ヴォイド世界のことは分からないが、少なくともこのエオルゼアに現存する分割体のファルネウスは、既に本体を失っている上に、分割された際の飛び散った飛沫のような存在なので知能も弱く、魔力もさほど強くない。だが、あたしにとって奴の欠片がこの世に存在していること自体が許せなかった。それは相方も同じように感じているようだ。
グリダニアのカーラインカフェで隣のテーブルから「ハウケタ御用邸の地下に封じられていた黒い翼の妖異が」という話が聞こえてきただけで二人とも奴だとピンときた。
あたしは何も言わずにテーブルを立つと、モブハンカウンターに向かいこの依頼を受けた。こいつを倒すことはあたしと相方が背負った業のようなものだと感じている。[
グリダニアのグランドカンパニー本部からエーテライト広場とは反対の小道へと入って行くと中央森林北西部に続く白狼門がある。あたし達はこの門をくぐり高低差のある中央森林の高台へと出た。